プラスマイナス、



紘奈との会話は諦めて、部屋を出ると紘奈も後ろからちょこちょことついてきた。


母さんはいつもと違ういやらしい笑顔を向けた。



「おはよう、まさくん♥」


ぶっとばすぞこのババァ、という言葉を堪えた僕はとても親孝行な良い息子だと思う。


「…母さん、どういうこと」

「誠斗ったら紘奈ちゃんと同じクラスになったのねー、よかったわねぇ」


昨日に引き続き、母さんはかなり機嫌が良いらしい。


「紘奈ちゃんたら、朝早くからうちの家の前にいたのよ。声掛けたら誠斗と学校に行きたい、なんていじらしい事言うもんだから、放っておくわけにもいかないでしょう?」



なんて余計なことを。



「学校、行きたくない…」

「え?どうしたのまさくん、具合でも悪いの?」



紘奈が心配そうに僕の背中に手を添える。

原因が自分だとも知らずに。


具合悪いさ、相当悪いさ。

紘奈と一緒に教室のドアをくぐる時に浴びる非難の視線を想像するだけで吐き気を催すほど悪いさ。



「うーん…別に顔色も悪くないし、いざとなったら紘奈ちゃんに助けてもらいなさい」

「任せてください!まさくん、気分悪くなったらいつでも言ってね!」



この女たちは、僕の気持ちに一切気付いてくれなかった。


“本気で具合悪い”アピールで朝ご飯をいらないと言ったけれど、結局僕は紘奈と並んで玄関まで見送られ、ただ朝食を食べ損ねただけだった。


登校中に空腹で本当に具合が悪くなればいいのに。



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