プラスマイナス、
「あたしにとっては、命に代えても守らなきゃならない人なの」
は?
命…?な、なに言ってるんだ…?
空気のように生きる僕には、命の危機に関わるようなことに足を踏み入れた覚えはないけれど…
「まさくん、いるんだよね?」
突然の紘奈の呼びかけにまた驚かされ、思わず足がタコの頭部の内側を蹴ってしまった。
「大丈夫、定岡くんはもういないから。」
僕は涙が溜まった目をシャツの袖でゴシゴシと拭ってから、恐る恐る滑り台から顔を出した。
「驚かせちゃったね。ごめんね?でもまさか学校サボっちゃうとは思わなかったよー」
辺りを見回すと、定岡は本当にいなかった。
おそらく紘奈にフラれたことにふてくされて、それ以上問い詰めずに去ったのだろう。
紘奈は変わらない笑顔を僕に向けた。
けれど僕はまだ彼女を信用しきれない。
「僕は、斎木紘奈なんて、知らない…」
紘奈は少し僕を見ると、また笑って言った。
「少しお話しよっか。」
僕は初めて学校をサボった。