プラスマイナス、
世間体を気にして、母は俊英を大学院まで行かせた。
学費はすべて俊英がアルバイトで稼いだ金だった。
働かなくなった父の分まで、俊英の給料で生活を支えていた。
だが俊英は、両親を嫌いではなかった。
逃げ場がないから、俊英の居場所はここしかなかったのだ。
だから、家のピリピリとした空気も、いつどんな目に遭うかわからない恐怖も、苦手なだけで決して嫌いではなかった。
むしろこの感情こそが、家族である証だと錯覚までした。
当然、学校でも友達などできるわけがなく、俊英は家でも学校でも独りで過ごした。
そして俊英が23になるころ、俊英が大学院に行っている間にしびれを切らした父が、ついに母を殺してしまった。
近隣の住民が、いつも聞こえてくる母の絶叫とは違う断末魔に気付き、警察を呼びその日のうちに父は逮捕された。
なにも知らずに家に帰って来た俊英はひどく驚いた。
家宅捜索され、家を取り囲む野次馬と警備員に話を聞かされた。
『容疑者には家族はいないと聞いているが…』
そう言った警備員の言葉に、俊英は頭を思い切り殴られたような衝撃が走った。