プラスマイナス、
慌てて駆け込んだ警察で、父は俊英を見てこう吐き捨てた。
『俺には家族なんかいねぇ。こんな男知らん。』
俊英の目を見て言った。
この言葉が果たして俊英の身を案じたものか、もしくは本心なのかは定かではないが、俊英を傷付けるには十分だった。
今まで耐えてきた暴言や暴力は、家族である証なんかではなかったと思い知らされた。
父の目には俊英など、見えていなかったのだ。
俊英は瞬く間に家族も家も失った。
野次馬の消えた家の周りには、「立入禁止」と印刷された黄色のテープが家を囲っていた。
DNA鑑定により、母と血縁関係があることがわかったため、母の保険金はすべて俊英に入った。
金額はかなりのもので、それは異常なまでの完璧主義な母を表しているようで俊英は泣いた。
その金でアパートを借り、初めての一人暮らしを始めた。
母の命と引き換えの金で借りてるから母と二人暮らし、ということにはならないのだろうな、と馬鹿みたいなことを考えてはまた泣いた。
子どものように泣いた。