政府より魔女へ
―――――――…


『思い出したわ。あなたは幼かった“レイラ”。母の可愛い妹弟子“レイラ・東雲・ダル・D・サラミヤ”』

女、レイラは歯を食い縛る。

『あなたを殺せば、この騒ぎは治まるのかしら。』

リラは血まみれのレイラを見下ろしていた。

『殺す気?』

『ええ。あなたが引き下がらない限り』

『さすが“無情の異端者”。それが人間に向けられていたら...』

『約束して。人間には手を出さないと。私たちは、影で地球を守ることが役目。そのための魔力よ』

『なぜ!? あなたは憎くはないの!? あなただって、人間に迫害を受けたでしょう!』


『真に強い者は、そんな怨念に捕われたりしない。復讐心など人間の持つもの。あなたも所詮、ただの人間だったということよ』

『‥‥‥‥』

『今すぐ帰りなさい。さもないと、森が本当に死んでしまう。あなたは、自然を壊しに来たわけではないでしょう』

『森が死ぬほど力を吸い取っているのは誰だ』

『あなたが、今すぐ帰ってくれると信じているからよ。』

『そ、そんなの』

『長老に伝えて。母は、私は生きている。ずっと、自然とともに、この地で眠っていると』


―――レイラは空から見下ろした。

箒の進む先に、彼女のすむ邑がある。
けれどまだ、まだ見えてこない。

今見えているのは、半球体の連なる人間の世界。

あの日、リラにやられてから、レイラはこうして地上の様子を見るようになった。

“先生、もう戻る?”

弟子が意思を伝えてきた。

「ええ、戻るわ」


なさけない。自分がなさけない。

再び生き返ったリラ。

人間の体を手に入れた魔法。

己の体を、ずっと癒していたのか、あの魔女は。

魔法は、使うものがいるから存在していられる。


魔女、リラは、ずっと、生きていた


「本当、あのヒトにはかなわない」

苦笑いをひとつ。

レイラは箒のスピードを上げた。

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