政府より魔女へ
「あなたたちの作ったものは何? 人間を殺し、その快楽で生きていく。
いい気味だわね。人間が消えていくのは好都合よ」

「僕らは生きてる。生きようとしている。それを好都合なんて言わせない」

「あら、“生きてる”なんてよくいえるわね。あなたたちは“生かしてもらってる”のよ」

「自然に? それはわかっているけど」

「わかってない」

冷ややかな声だ。

僕は息を呑んだ。

その冷ややかさで、空気が張り詰めて、このひとは怒っているんだ。

そう痛いくらいに感じた。
「あなた、自分達だけが害を被っているとでも思っているの?」

「.....まさか」

「あれは自然にまで手を出してる」

信じがたかった。

そんな報告は受けていない。

「ゴキブリから出される化学物質を、よもや忘れているわけじゃないでしょうね」

「‥‥‥‥」

うつむいてしまった。

人間が殺されていくのは確かに化学物質のせいでもあった。

怪物の体内で合成された、まさに計算ミスといえるもの。

「だから、どんなに嫌いでも、自然を守るためなら、仕方ないと思うの」

その言葉で、僕ははっと前を見た。

彼女は諦めた。

そんな顔をしていた。

「と、いうことは‥」

「森も答えはわかっている。だからそうせざるを得ない状況をつくった人間にいじわるをするのね」

彼女はするりとカーディガンを脱いで、ワンピース一枚になった。そして軽く右手をかざし、その内に火を灯す。

「これは何物も焼け尽くす業火。恐らくはこれで処分ができるでしょう。これでも始末できないならば、そのときは知らないわ。ま、あなたの恋人くらいは守ってあげる」

「いっ!?」

「一応知り合いなの。森にいなかったのも彼女に会っていたからよ」

とてもいぢわるそうにほほ笑みかけられ、僕は居心地の悪さに顔をしかめた。

「最近別れたばかりですが‥‥」

「ええ。もちろんよく知っているわ」

「‥‥‥」
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