Escape from the DEAD second night
「…っ…」

あまりにも不憫で、何か声をかけようとする要を。

「……」

紅が制し、静かに首を横に振る。

…何を言おうというのか。

勿論家族や愛しい者を喪ったのは彼だけではないだろう。

だから何だ?

『辛いのはお前だけじゃない、だからメソメソするんじゃない』と叱咤するのか。

誰にそんな事を言う権利があるものか。

彼から家族を奪ったのは、あまりにも理不尽な暴力だ。

謂れもなく、突然の嵐のように過ぎ去った災厄によって、何よりも大切なものが皆殺しにされる。

その計り知れぬ悲しみと絶望は、他人如きが癒せるものではない。

何も言わず、何も言えず。

要達は、塞ぎ込んだ男性のそばを通り過ぎる他なかった。

< 67 / 132 >

この作品をシェア

pagetop