の。
 綺麗なガラス細工から、不気味なポーズをキめた人型の消しゴム、眼球そっくりなビー玉(気持ち悪っ!)、果てはネジやホッチキスの針、用途不明の謎パーツに至まで、それはもう手当たり次第。
 私には何を基準に収集されたのかすら良く分からないのだけれど、もしかしたら収集には基準なんて無いのかもしれないけれど、とにかく問題はそこではなくて。
 その半開きになっている窓の縁に並べられた小物の数々は、まったく荒らされた形跡が無いのだった。
 仮に、賊が窓から侵入したのなら、これを全く荒らさずに室内に忍び込む事は出来ない。
 無論、それらを荒らさずに室内から出る事も。
 そもそもこれは、前提からしておかしい気がする。
 いくら真夜中とは言え、人が眠っている部屋をわざと狙って、泥棒が入って来たりするだろうか?
 しかも、街灯の光が差し込む部屋に、誰かに目撃されるリスクを冒してまで。
 ちょっと考えにくいよね。
 私が泥棒なら、きっとこの時間帯には人が居なさそうな──そう、リビングやキッチンを選んで侵入するんじゃないかな。
 ……そんな事、私はしないけどね。
「じゃあ、さっきの気配は──?」
 確かに居た。
 何か居た。
 それは物理技術によって計測出来ないような、気配などという不確かな物だけではなく、れっきとした触覚として右腕に感触が残っている。
 圧力は、機械で計測出来るのだ。
 この部屋に、人間が出入りした形跡は無い。
 部屋の主たる大樹が眠ったままなので断定は出来ないけれど、恐らく何者かに何かが盗まれたという事も無い、と思う。
 じゃああの気配の正体は何?
 私の右腕に触れた犯人は誰?
 思考する。
 そう、大樹がよくやるように。
 手元にある情報を、整理して、吟味して、判断して、結論を下す──までも無い話。
 そう、私はじっくり考える事よりも、直感による閃きの方が冴えるタイプ。
 そして私の勘が、犯人の名をずっと叫び続けていた。
 ずっと頭の中で、警鐘を鳴らしっぱなしにしていた。
 そう、そいつの名は──

「き、吸血鬼っ!!」
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