の。
 それほどまでに、室内は徹底してだんまりを決め込んでいた。
 動は無く、静のみによって構成された世界。
 それは、死の世界を連想させた。
 死。
 危。
 血。
 そこから再び吸血鬼を連想して、暗雲が頭の中を埋め尽くす。
 そうだ、吸血鬼は目立つ行動は取らない。
 だからなのか、昼間はまず見かけないじゃない。
 なら、この静寂の中こそが奴のテリトリー。
 夜、静寂、そして二匹の餌。
 私の勘が、言っている。
 人食いの鬼が、血を飲む化け物が、この室内には必ず潜んでいると!
 しかし。
「おかしい──全く反応が無い」
 ぐるりと部屋を一周してみる。 カーテンの裏。
 机の下。
 箪笥の陰。
 ゴミ箱の裏。
 私は手にした武器で、目についた場所を手当たり次第につついてみる。
 しかし、いつ吸血鬼が物陰から飛び出して来ても構わないよう身構える私を嘲笑うかのように、一向に奴は姿を見せようとしない。
 ……私を恐れている?
 吸血鬼ともあろうものが?
 そうかもしれなかった。
 私は鬼を迎え討つべく武器を持っている。
 しかも鬼を討たんと殺気を放っている。
 しかし、その程度の事で人間とは全く異なるあの奇怪なものが、果たして逃げ回り、隠れ続ける理由があるだろうか?
 分からない。
 敵が何を考えているのか、全く推し量る事が出来ない。
 こんな時に大樹が動けたら、きっと理論的かつ合理的に解を導いてくれるんだろうけど……
 未だ目を覚まさない彼。
 今日の出来事を考えれば、彼が今晩中に目を覚ます事など無さそうだった。
 大樹──
 私は、特に意味も無く、本当に深い意味もなく、自分の彼氏に視線を向けた。
 それは、本当にただの偶然。
 大樹の静かな寝顔。
 帰って来てすぐにパジャマに着替えてしまったので、服装はかなり涼しげ。
 袖は半袖。
 丈は膝までのハーフ。
 やや露出が多め。
 チェーンのアクセサリはとっくに外していて、窓際のガラクタの中に。
 そして、ボタンを二つ外した首周り。
 そこに。



 吸血鬼の牙が突き立てられていた。
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