の。
暴風とのレースで体力を使い果たした僕は、ソード、アロー、どちらの競技もあっけなく敗北を喫してしまっていた。自業自得である。疲労がピークに達していた事もあり、友人が迎えに来るまでの間は医務室で横になって待つ事にした。
しかし、僕を迎えに来たのは見知らぬお兄さんだったのだ。年は五つか六つくらい上だろうか。知人を装って僕を連れ出した彼は、そのまま会場の隣の公園へと向かう。知らない人についていってはいけません、なんて小さい頃から数えるのも馬鹿馬鹿しいくらい聞かされてきたけれど、僕は咄嗟に彼と話を合わせ、迷わずその後ろを黙ってついていく。
小柄ながら、引き締まった体躯。歩き方を見ただけでも分かるほど、完成された体重移動のそつの無さ、無駄の無い身のこなし。そして、背に担いだ改造に改造を重ねたエアスラボード。名前は知らない。顔も見た事が無い。けど、医務室で一目見た時から、僕は彼と戦ってみたいと思っていた。彼は強い──それも半端なく。
予想通り、彼は僕に勝負を挑んできた。結果的にとはいえ、無名の選手が世界に名だたる王者と爆風の両名に勝ってしまったのだ。その走りを確かめてみたい、そのランナーに勝ちたい、そう思うランナーが居ても不思議は無いだろう。
彼との走行形式はランス。複雑なカーブやダウンヒル、段差などの障害物を設けた、エアスラの障害走ともいうべき競技だ。しかしここは小さな公園の施設だけあって、彼と走る事になったコースは大した障害物も設置されておらず、純粋にスピードを比べ合うのに適した物だと言える。
そして、やはり彼は強かった。荒々しく容赦の無いチャージ(体当たりによる妨害の事。エアスラは公式ルールで認められた行為である)に何度も体勢を崩された僕は、ただ彼に食いついていく事に一生懸命だった。
走る前に取り決めた通り、どちらか片方が負けを認めるまで続けられる異常なレースで、僕たちは時には追い越し、時には追い越され、狂ったように周回を重ねていく。身を切るような緊張感と、風を切る爽快感。そして、一瞬たりとも気を抜けない実力の好敵手の存在。それは、苦しくもとても楽しい時間だった。少なくとも、僕はそう思っていた。
でも、はたして彼はどうだったのだろうか。修羅の形相でコースを駆け抜けていく彼の事が、僕には分からなくなりかけていた。
しかし、僕を迎えに来たのは見知らぬお兄さんだったのだ。年は五つか六つくらい上だろうか。知人を装って僕を連れ出した彼は、そのまま会場の隣の公園へと向かう。知らない人についていってはいけません、なんて小さい頃から数えるのも馬鹿馬鹿しいくらい聞かされてきたけれど、僕は咄嗟に彼と話を合わせ、迷わずその後ろを黙ってついていく。
小柄ながら、引き締まった体躯。歩き方を見ただけでも分かるほど、完成された体重移動のそつの無さ、無駄の無い身のこなし。そして、背に担いだ改造に改造を重ねたエアスラボード。名前は知らない。顔も見た事が無い。けど、医務室で一目見た時から、僕は彼と戦ってみたいと思っていた。彼は強い──それも半端なく。
予想通り、彼は僕に勝負を挑んできた。結果的にとはいえ、無名の選手が世界に名だたる王者と爆風の両名に勝ってしまったのだ。その走りを確かめてみたい、そのランナーに勝ちたい、そう思うランナーが居ても不思議は無いだろう。
彼との走行形式はランス。複雑なカーブやダウンヒル、段差などの障害物を設けた、エアスラの障害走ともいうべき競技だ。しかしここは小さな公園の施設だけあって、彼と走る事になったコースは大した障害物も設置されておらず、純粋にスピードを比べ合うのに適した物だと言える。
そして、やはり彼は強かった。荒々しく容赦の無いチャージ(体当たりによる妨害の事。エアスラは公式ルールで認められた行為である)に何度も体勢を崩された僕は、ただ彼に食いついていく事に一生懸命だった。
走る前に取り決めた通り、どちらか片方が負けを認めるまで続けられる異常なレースで、僕たちは時には追い越し、時には追い越され、狂ったように周回を重ねていく。身を切るような緊張感と、風を切る爽快感。そして、一瞬たりとも気を抜けない実力の好敵手の存在。それは、苦しくもとても楽しい時間だった。少なくとも、僕はそう思っていた。
でも、はたして彼はどうだったのだろうか。修羅の形相でコースを駆け抜けていく彼の事が、僕には分からなくなりかけていた。