の。
「どうかな。まあ、少なくともハイにはならないだろうけど」
「はいはい……」
 面白くも可笑しくもない駄洒落をスルーし、私は大樹に意見の続きを促した。
 彼もそんな私の対応には慣れっこなようで、全く意に介した様子も無く話を続ける。
「最近の小説や漫画なんかじゃ、日光も、ニンニクも、銀も十字架も流水も、何にも効かないなんて奴も珍しくないからなあ。たとえ効果があったとしても、即死級のダメージを負ったりしないのが通例みたいだし」
「そんなの、強すぎてやっつけられないよね」
「簡単に倒せたら、悪役が務まらないだろ? 話が盛り上がらないもんな。それに、悪や人類の天敵じゃない吸血鬼の話も結構あるみたいだし」
 言われてみれば、確かにその通りだった。
 実際に、私もそんな話を読んだ事があり、それはそれで楽しく読む事が出来た。
 人類を脅かさないならやっつける必要も無いわけで、過剰な戦闘力や弱点の設定は不要となってしまうのである。
 ……嫌いじゃないけどね、私は。
「でも、そうなると。現実に噂になってる吸血鬼、大樹はどんな奴だと思う?」
「テレビでも注意を促してるってんなら、それはきっと実在するんじゃないかと思うんだ……血を飲むか抜くかするような性癖を持つ、快楽殺人者とか?」
 それは怖い話だ。
 確かにそんな奇人が居るなら、行動を起こすのは人目に付きにくい夜かもしれない。
 そんなヤバい猟奇殺人が本当に起きているなら、警察が黙ってないとは思うけど。
「……だよなあ。となると後は、実際は血を吸う訳じゃないけど、便宜上ヴァンパイアと呼称されるだけの特徴を持った奴が居る、とか」
「たとえば?」
 たこ焼きをつつく手を止め、歩を進める足を止め、大樹は通りの端のベンチに腰を下ろした。
 私もそれに倣う。
「たとえば……そうだな、ヴァン=パイアとかって名前の外国人が緊急来日! なーんて」
 わはは、ありえねえー、と私達の爆笑が通りに響いた。
 その笑い声も、軽やかな花火のリズムに塗り潰されていく。
 ヴァン=パイアさんね。
 もしそんな有名人が居たとして、しかも来日して、更にテレビに出ていたとしても、夜しか現れない道理は無いし、そもそも被害者が出るはずも無いのだった。
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