涙のスイッチ
「送るよ」


迪也くんがコートに袖を通すのを黙って見て。


そしたらまた迪也くんが八重歯を覗かせて


「どした?」


って聞く。


聞かれるのを待ってるあたしがいる。


でも打ち明けられない鍵をかけたココロを抱えたあたしは、


「帰り、1人でも大丈夫だよ?」


言ってみるけど。


なんとなく答えはわかるんだ。


「危なっかしいんだよ、美和は」


笑い合うけど、なんとなく泣きたくなった。


だって。


今日の迪也くんとの時間はこれっきり。


あたしはいつ東京に帰るかもわからない。


手を引いて歩くと言ってくれた迪也くんだけど、それがいつまでかわからない。

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