涙のスイッチ
「あたし、学校に行けない理由なんてなかったの。イジメとか、勉強が嫌いとかそんなんじゃなく、ただなんとなく空っぽで、無気力で。部屋から出るのが億劫だっただけで、パパとママを困らせるつもりもなくて…。だから、ごめんなさい…」


「美和ちゃん…」


「あたしのせいでケンカさせちゃって、ごめんなさい。ね、パパとママ、離婚したり…しない…?」


「あぁ、しないさ。俺の方こそ、美和の目線に立って考えてやれなくて、ごめんな?殴ったりして話しを聞こうともせず、京子とケンカする度に美和を追いつめてたんだよな。すまなかった」


パパは涙ぐむママの手を握って、優しく語りかける。


「京子。すまなかった。毎日、俺を、美和を支えてくれたのは他の誰でもない、京子だ。美和の事を持ち出してつまらないケンカをしたりして、悪かった。
何でも京子にまかせっきりだったんだよな。仕事を理由にして、忙しいふりをして、いつからか支えてくれている君の存在が影になって見えなくなっていた。
なぁ、京子。帰って来てくれるな?元の、いや、もっといい家族になれるよな?」


「あなた…。私の方こそ、ごめんなさい。つい感情的になって、ブレーキが効かなくなってしまって…。いろんな思いが重なって、もう家にいられなかったの。急に出てきたりして、ごめんなさい…」


「少し、2人きりで話しをしよう。車、空港でレンタカー借りてきたから、それに乗って出掛けよう」


「わかったわ」


出て行くパパとママに、玄関でもう一度


「ごめんなさい」


と言うと、パパはあたしが子供の時たかいたかいしてくれたような優しい目尻を作って、ママの肩を抱き、出て行った。
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