†導かれる聖女†


『聞こえるわ…
聞こえる…だから……』



私の祈りに反応したのは一つの名前も知らない魂だった。


『早く…逃げて……
お願いっ…彼を救って…』


彼……?
彼って……?


『私の大切な……
大切な人を助けて…
助け…て……
あなたにしか…出来ない…』


私に…しか………
私にあなたの大切な人を救う事が出来る…?


『あなたの力は…
選ばれた…愛されたあなたにだけに…』


選ばれた?
愛された?
私はそんな美しい存在じゃない。


だって私は……
いつも人を不幸へと導く手伝いをしてた…


そんな私が許される日は来る?私が…汚れず、綺麗になる事は出来る…?


『あなたは綺麗よ…
綺麗故に涙を流し、心を痛める。それは汚れ?
私は違うと思うわ』


でも………


『あなたは清く美しい…
その心はきっと…
沢山の人間を救うわ』


どうしてそんなに……
あなたは私を…


『あなたが……
あなたが自分を責め、悲しんでいるから…
私はあなたに幸せになってほしい。私は…もうそれを望む事さえ出来ないから…』


あ………ごめんなさい…
私は、あなたを傷付けるつもりはなかったの…


『…ふふっ……
あなたが謝る事なんて無いわ。私はあなたに幸せになってほしい…そう言ったでしょ』


うん…ありがとう…
ねぇ…あなたの名前は…?


『あなたは…もう知っているはずよ…
私の大切な人…ティアネイを救って…
ティアネイはあの悲劇からずっと自分を責めてた。そして今度は…復讐しようとしてる。』


ティアネイ…
まさかあなたは……


『お願い……
ティアネイを…………』


約束する…約束するから!!
私が…守るから!!!



『ありがとう…』


―パチンッ


そして徐々に意識と感覚が戻ってくる。

私はゆっくりと目を開けた。








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