豹変時計
一章.破れた紙切れ
窓の外には、まだ昼だというのにせっかちな…或いは、太陽が見よ見よと推しているかのような霞んだ月が見える。
授業中にも関わらず、そんな窓の外にある矛盾の世界を、頬杖を付いて眺める男子生徒が一人。
最後尾に座るその人物の隣には、他の席の生徒にはあるような他人の机はない。
ポッカリとそこに穴が開いたかのようにも見える。
教師の眼が、手にしていた教材から、授業も聞かずに外を眺める一人の生徒に移される
訝しげな眼だ。
教師はそのままその生徒に、持っていたチョークの削れていた方を向ける
「マサタカ!これの答えは?難易度かなり高いぞ」
「…はい」
気怠そうにに窓から教師に目を移し起立した《マサタカ》は、
「547です」
何でもないことのように、その《難問》に答える。
まるで、《自分がここにいる意味が分からない》とでも言うように。
――すげー…
――何でわかるんだ…
――アタシ、全然わかんなかったよ…
教室にざわめきが広がる
しかし、着席し再び窓の外に目を移した《ざわめきの原因》は、
教室の騒がしさにも、教師の表情が一層険しくなったことにも、気付いていなかった。
▽
「なんだ…?あれ。気持ちわりぃな」
マサタカは自分の家の前を徐行しながらこちら側へ向かってくる、左ハンドルの黒い自動車に目をこらした
「金持ちでーす…ってか?」
マサタカは顔をしかめて、自宅に向かう。
自動車と擦れ違うその瞬間
「すみません!」
「?」
自動車の左後部座席の窓を開けて、誰かがマサタカに声を掛けた。
この誰にでも、或いはどんなマンガにでもありそうな在り来たりな出会いが
後の人生にさえ響くものであることには
まだ、この秀才は気付いていない。