豹変時計
二章.恋菜




「…………」

シャワーを浴びて濡れた髪を拭きながら、優貴は携帯を操作し耳に当てた。


「もしもし…?」
「急にごめん…レナ…」

「…優貴から電話くれるなんて、珍しいね…」

「ごめん…」

「ううん、嬉しい。…どうしたの?」


「………」

(そうだ…俺、何で電話したんだっけ…)

優貴は何も言わず惚けたように、宙を見据えた。

「…………」

(男に襲われたなんて……)


「…ふふ…変なのっ…」

レナの息を含んだ笑いが、耳をくすぐる。

(……口が裂けても言えねぇよな…)



「私になんか頼みごと?お金とか?」

「……そんなこと」

暖かなレナの声に、優貴は少し笑顔を取り戻す。

「そんなこと、レナに頼むわけないだろ?」


レナの声が、少し拗ねたように低くなった。


「…頼ってくれても良いんだよ?私、優貴の為なら…」

「違うって。…そうだとしても、レナに迷惑かけたくない…」




この言葉で大抵の女子は思う。《自分は大切に想われているんだ》、と。

レナもその優貴の魅力に嵌まっていた。


《魅力の根源》が、それを狙っているか否かは定かでない。




優貴はようやく自分から言葉を発する。



「…今日の放課後さ、すぐ誰もいなくなったよな?」

「そうだね」

なんでもないことのように答えるレナ。

「それは…何で?」

優貴の眉間に、疑問の皺が寄る。

「あれ?先生の話聴いて無かったの?」

「…聴いて無かったかも」

「ダメじゃん、ちゃんと聴かなきゃ…なんか、『今日の部活は禁止。教師もすぐに帰りなさい』って、校長が急に言い出したらしいけど。」



「校長が………」

「何だろーね…」

「ああ…。」


(校長は…確か………)





優貴はこめかみに指を当てた。


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