豹変時計
二章.恋菜
▽
「…………」
シャワーを浴びて濡れた髪を拭きながら、優貴は携帯を操作し耳に当てた。
「もしもし…?」
「急にごめん…レナ…」
「…優貴から電話くれるなんて、珍しいね…」
「ごめん…」
「ううん、嬉しい。…どうしたの?」
「………」
(そうだ…俺、何で電話したんだっけ…)
優貴は何も言わず惚けたように、宙を見据えた。
「…………」
(男に襲われたなんて……)
「…ふふ…変なのっ…」
レナの息を含んだ笑いが、耳をくすぐる。
(……口が裂けても言えねぇよな…)
「私になんか頼みごと?お金とか?」
「……そんなこと」
暖かなレナの声に、優貴は少し笑顔を取り戻す。
「そんなこと、レナに頼むわけないだろ?」
レナの声が、少し拗ねたように低くなった。
「…頼ってくれても良いんだよ?私、優貴の為なら…」
「違うって。…そうだとしても、レナに迷惑かけたくない…」
この言葉で大抵の女子は思う。《自分は大切に想われているんだ》、と。
レナもその優貴の魅力に嵌まっていた。
《魅力の根源》が、それを狙っているか否かは定かでない。
優貴はようやく自分から言葉を発する。
「…今日の放課後さ、すぐ誰もいなくなったよな?」
「そうだね」
なんでもないことのように答えるレナ。
「それは…何で?」
優貴の眉間に、疑問の皺が寄る。
「あれ?先生の話聴いて無かったの?」
「…聴いて無かったかも」
「ダメじゃん、ちゃんと聴かなきゃ…なんか、『今日の部活は禁止。教師もすぐに帰りなさい』って、校長が急に言い出したらしいけど。」
「校長が………」
「何だろーね…」
「ああ…。」
(校長は…確か………)
優貴はこめかみに指を当てた。