豹変時計
▽
「じゃあな…話せてよかった。ありがと」
うっとりと、レナが応える
「私もだよ。じゃ…おやすみ。」
「おやすみ」
優貴は、閉じた携帯のサブディスプレイを眺めながら呟く。
「校長…施設……ロシア……。やっぱり、金か…」
ベッドの上に膝を抱いて座り、顔を埋めると、拭き取りきれなかった髪の水分が集結し、優貴の腿にポタリと落ちた。
「でも、なんで俺が……」
▽
「おはようございます…」
「っ!!」
気配を感じさせずに鞄を置いた零汰を見た瞬間、優貴の肩が跳ねた。その弾みに、持っていた携帯が手からこぼれ落ちる。
零汰は寂しげに肩を落とし、優貴から眼を逸らした。
その表情に昨日のような眼光はない。
「昨日は…」
「『ごめん』『すみません』とか、言いたいのか?!」
優貴が声を荒げた。
クラスメイトたちがただならぬ雰囲気を嗅ぎとり、話し声をひそめる。
「…ごめんなさい。」
「何なんだよ…」
優貴の拳が机を叩き付ける。
「僕は…」
間もなく鳴ったチャイムに、零汰の言葉はかき消された。
▽
その日、優貴と零汰と言葉を交わさなかった。
優貴は部室でジャージに着替えると、準備運動…グランド10周の為に外に出た。
「っとと…」
靴をつぶさない為に踵を上げて歩いていると、優貴はバランスを崩した。
「…っぶね!」
それを後ろから誰かが支える。
優貴は自分を支える腕を見る。自分と同じジャージを着ているようで、腕にしっかり名前の刺繍がされていた。
――藍原 敦之――
優貴はその腕に支えられ、しっかりと立ち上がった。
「わりいな…藍原」
「ホントわりぃよ、天才くん」
敦之は優貴の頭を小突く。
「天才じゃねーよ…俺は並だ」
優貴は笑って敦之のワックスでフワリとセットされた頭を、小突き返した。
大袈裟に痛がりながら敦之も笑う。
「なんとでも言え。ついでに彼女譲れ」
「ははっ…何でその話と繋がるんだよ」