豹変時計





十数人の同じジャージを着た男子生徒達が、バラバラの間隔でグランドを走っていた。


息の乱れと、足から伝わる振動で言葉が切れ切れになりながらも、敦之は優貴の顔を覗き込んだ。


「ど、したんだ…?」

「何、が?」

優貴は首を傾げる。

「それ…」

敦之の視線を辿り、優貴は息をのんだ。


(…?……これ…!)

優貴のジャージの袖からのぞいた手首には、うっすらと残る《あの痣》


「これ…はッ……ゴほッ…」

動揺に呼気がおかしなところに入ってしまい、優貴はむせ返った。

呼吸困難の苦しさに、足が止まる。

「ゴほッ!…ゲホッ」


敦之もすぐに引き返し、息もあがったままに優貴の顔を覗き込んだ。

「だい、じょぶか…?」



「ぅ…げほッ……」

(やっべ……格好悪…)




続けて吐き気も襲ってきたらしく、優貴は口元に手を当て、膝を着いた。


「お前ら、先に行ってろ!…ヤバそうか?…ほら、吐けよ…」

敦之は後ろから追いついて来た後輩たちに声を掛け、優貴の背を擦(さす)る。


「我慢、すんなよ…」


優貴はただ首を振った


「…格好つけてねーで。ほら、俺が処理すっから…」









「藍原…」



優貴が顔を上げた。保健室のベッドの上だった。



「もう大丈夫…でも、部活は休ましてくれ…」

椅子に座った敦之が頷く。


「分かった。じゃあ、俺も抜けるわ。」

「いっ…いいよ別にそんな…」

「いや、抜ける。心配だから」

「っ…」

優貴は思った。

(殺し文句、だ)と



敦之は仕切りのカーテンを少し開き、優貴に廊下を見るよう眼で促した。


そこには

「…零、汰?!」

「アイツ…さっきからお前の周りをウロウロしてる。あの眼…なんか危ない気がする」

「…いつ、から……?」

「ん。三時…四十分くらいかな」


「三時、四十分…」


(…不都合……遅れた…昨日の紙…)


優貴は何かを掴んだかのように唇を噛んだ。



「藍原、手伝って欲しいことが……」
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