豹変時計
▽
十数人の同じジャージを着た男子生徒達が、バラバラの間隔でグランドを走っていた。
息の乱れと、足から伝わる振動で言葉が切れ切れになりながらも、敦之は優貴の顔を覗き込んだ。
「ど、したんだ…?」
「何、が?」
優貴は首を傾げる。
「それ…」
敦之の視線を辿り、優貴は息をのんだ。
(…?……これ…!)
優貴のジャージの袖からのぞいた手首には、うっすらと残る《あの痣》
「これ…はッ……ゴほッ…」
動揺に呼気がおかしなところに入ってしまい、優貴はむせ返った。
呼吸困難の苦しさに、足が止まる。
「ゴほッ!…ゲホッ」
敦之もすぐに引き返し、息もあがったままに優貴の顔を覗き込んだ。
「だい、じょぶか…?」
「ぅ…げほッ……」
(やっべ……格好悪…)
続けて吐き気も襲ってきたらしく、優貴は口元に手を当て、膝を着いた。
「お前ら、先に行ってろ!…ヤバそうか?…ほら、吐けよ…」
敦之は後ろから追いついて来た後輩たちに声を掛け、優貴の背を擦(さす)る。
「我慢、すんなよ…」
優貴はただ首を振った
「…格好つけてねーで。ほら、俺が処理すっから…」
▽
「藍原…」
優貴が顔を上げた。保健室のベッドの上だった。
「もう大丈夫…でも、部活は休ましてくれ…」
椅子に座った敦之が頷く。
「分かった。じゃあ、俺も抜けるわ。」
「いっ…いいよ別にそんな…」
「いや、抜ける。心配だから」
「っ…」
優貴は思った。
(殺し文句、だ)と
敦之は仕切りのカーテンを少し開き、優貴に廊下を見るよう眼で促した。
そこには
「…零、汰?!」
「アイツ…さっきからお前の周りをウロウロしてる。あの眼…なんか危ない気がする」
「…いつ、から……?」
「ん。三時…四十分くらいかな」
「三時、四十分…」
(…不都合……遅れた…昨日の紙…)
優貴は何かを掴んだかのように唇を噛んだ。
「藍原、手伝って欲しいことが……」