豹変時計

最初は嫌がらせとしか、思えなかった。








「…俺は男だ」

(正攻法の断り方は…)



「知っています。」

「…なら、手、離せ」



接続の文字を全て飛ばして、叩き付けるように言葉をぶつけたマサタカは、自分を壁際まで追い込んだその人物を睨んだ。




「断ります。」

(ダメか…)




マサタカの両手首を掴んで、頭上で後ろの壁に縫い付けるようにマサタカを押さえこんだその人物は、《被害者》とは対称的に唇の端を上げた


(こいつ…ッ!)

その高慢な態度に、マサタカは一層に警戒のレベルを上げる。




こんなときの対策として重要なのは、とにかく《相手の気を逸らすこと》だと分かっていたマサタカは、怒りを押し殺して会話を続けようと試みる。



「レイタ…ここが何処か、わかってるのか?」



「S高校の、僕らのホームルームじゃないですか?…ま、関係ないですよ。僕は見られても構わないですから。」


「それよりも…」と、レイタはマサタカに顔を近付けた。

「っ…!」

慌ててマサタカは顔を背ける。

(な、んだよ…マジか?コイツ…)

「…そんなこと訊いて来るってことは、意外と乗り気なんですね。」


横目で見ると、レイタはマサタカにでは無く《マサタカの耳》に語りかけているようだった。







(気持ち悪ィ…こういうタイプのホモ野郎には……)


マサタカは顔を赤らめて視線を落とす。

レイタは満足げに眼を細めた。



「レイタ…」


マサタカは顔を赤らめたまま、幾分か潤んだ瞳でレイタを見つめてみせた。


レイタは思わず息をのみ………




「…ぅッ!」



状況が飲み込めないままヨロヨロと後退り、前のめりに蹲った。








「俺にはそんな気、ねーから」



蹴り上げていた右膝と、突き出していた左肘を戻して、マサタカはレイタを見下ろした。



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