豹変時計



レイタは手帳を指でたどって何かを確認し、顔を上げた。




「あの…S高校の場所は、ご存じですか?」



(S高校…)


知らないわけが無い。マサタカは《自分が今来た道》を振り向き、指差した。



「この道を道なりに進んで、最初の交差点を左。その後……」



説明をしながら、マサタカは横目でレイタを窺った。



レイタはマサタカが話すとそれに重ねるように、運転席の誰かに向かって日本のものでは無い言語を話していた。

車の窓にはスモークが貼られているため、運転席の様子は窺い知れなかったが。


(この言葉…ロシアか…どうりで日本語話してる時も、変なアクセントがあるわけだ…)



説明をしながら、マサタカは思った。


(…でも日本語は習った程度…ってわけでもないな)

現に、マサタカは日本人として普通のスピードで話しているが、レイタは一度も聞き直すことはなかった。

「……あとは、その橋を渡れば見えてきます。」

マサタカがレイタに向き直っても、少しの間レイタは運転席に話していた。
最後に小さく頷くと、レイタもマサタカに向き直った。



「ありがとうございました。」


レイタが頭を下げると、自動車はユルユルと動き出した。


「…いえいえ」







マサタカは走り去る黒の外車を肩越しに見ながら、


(嫌な予感がするな…)


頬を掻き、再び家へと歩み始めた。






この転校生が何故か、そして突然、《加害者》になったわけである。





「おーい…レイタ…」


マサタカがレイタの背を擦(さす)り続けていると



「……………はっ!」

「わ」





ばっ、と。

レイタが顔を上げ、マサタカが慌てて飛び退いた。






飛び退かなければ、マサタカは頭突きを食らっていただろう。




もちろん警戒の意味も十分に含んだ《反射》だった。
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