豹変時計





「そんなに苛めたくなるような顔、しないでく…ぅッ!!!」



なんとか隙をついて零汰の腹にまた膝蹴りをいれ、その手を払いのけてマサタカは走り出した。



誰もいない学校の敷地を出ても、零汰が追って来る気配は無かった。







(おかしい…おかしすぎる!!)


マサタカは家までの2キロほどを、駆けた。


ぶつかった他人に謝ることもなく



赤信号を、渡って


途中で解けた靴紐にも構わず




全力で駆けた。



「…っはぁ…はぁ…は…」

自宅の鍵を開けてようやく息を整える術〈すべ〉を思い出し、ドアを開けるとそのまま玄関に座り込み、制服の上着を脱いだ。






数分はそうしていただろうか。

マサタカは靴を脱ぎ、制服を抱えて二階へ導いてくれる《段差たち》をゆっくりと踏んだ。


上がりきると、左右に一つずつのドアがある。


マサタカはドアには目もくれず、今上った階段と反対側の窓を開けた。



ワイシャツの襟元から入ってくる外気が火照った体に心地良い。


しかしマサタカの表情は何か強い感情に歪んでいた。

「おかしい…」



最悪の場合、助けを呼べばいいと思っていた。

<あの状況を見られる>というリスクもあるが、優等生で人気もあるマサタカが、自分は被害者であると説明すれば、何とかなる。

それに、自分なら最近やってきた転校生よりも信用は厚いはず。


そう、思っていた。



(なのに…なんで。)


《部活に勤しむべき生徒》や、《巡回の教師》すら学校にいなかったのか。


そして何より、



《零汰は何をしたかったのか》



《あの豹変ぶりは何なのか》………




疑問ばかりだった。




マサタカは窓を閉じ、階段から見て右の部屋に入った。



――☆優貴マサタカ☆――


閉められたドアには、可愛らしい…



女の子の手作りと思しきプレートが掛けられていた。

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