豹変時計



転校生がやって来た日



「席は、あっち…あのそっぽ向いてる奴の隣だよ」


担任の教師が転校生に席を教えるための《分かりやすい表現》で、皆の笑いを誘った。


「はい」

零汰は笑顔を零すわけでもなく、あくまで不安げに、今日の朝運ばれて来た席に着いた。


《そっぽを向いてる奴》が、零汰に顔を向けた。


「よ」

「あ…」


紛れもなくその少年が《道を教えてくれた人》だと、すぐに理解した零汰は、またも頭を下げる。


「あの時は、ありがとうございました…」

「…ん?知り合いか?」


担任がニコニコと二人の方に歩み寄る。



「別に」

《そっぽを向いてる奴》は、無愛想に言った。


担任は笑顔を崩さぬままに、零汰に頷いてみせる。


「こんな態度してるけど、コイツは頭も運動神経もいい奴なんだ。珍しい名前の読み方するし…話題は幾らでも…」


「先生!今日チャイム鳴らない日だよ!」

誰かの大声に、担任は腕時計を見た。《そっぽを向いてる奴》も、釣られる様に掛け時計に目をやる。


「うわっ!マズいな…じゃ、頑張れよっ!」


授業時間はすでに始まっていた。担任は最後に零汰の肩を叩いて微笑むと、小走りで教室を出て行った。







一校時は自習だった。


《自習》とは名ばかりなのが、この高校では通例だ。



実質は《私語タイム》である。





「…えっと……マサタカくん…でしたね?」

零汰は怖々と《そっぽを向いて〈た〉奴》の顔を窺う。

「そう。」

マサタカはペンケースから左手でシャープペンを取り出し、零汰の机に文字を書いた。


―優貴―



「これで、マサタカ…ですか」

零汰は文字を覗き込んだ。

「珍しいだろ?」
優貴はペンをケースにしまった。


「普通に読んでしまえば、ユウキですよね。」

優貴は二度ほど頷いた。


「零汰は漢字、わかるのか」



(担任は、『ロシアから来たばかりだから、言語や文化面で何か不便があるかも』…とか言ってたけど……)


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