豹変時計
▽
「優貴くんは、勘が鋭いんですね…」
(…と言うより観察、分析力が卓越してる…探偵顔負けだな…)
先程も、零汰がある女子生徒に声を掛けられることを《予言》していた。
「並だよ」
優貴は今買ったアンパンを囓った。
零汰はテーブルに置いてある割り箸立てを、興味津々に眺める。
「優貴くんは、モテるんでしょうね…」
「…………並だよ」
アンパンを飲み込んで、優貴は繰り返す。
「…零汰こそ、あっちでは女の子にモテただろ?」
(ロシアはユーラシア大陸だよな……)
優貴は零汰が当然肯定するだろうと、思っていた。
「全然、です」
「…嘘だ。」
優貴は、ビニール袋からピザパンを取り出す零汰をまじまじと見た。
一本一本が細い髪も、寒さに順応して高くなった鼻も、凛とした瞳も、
《ほぼ総ての国、共通で美しいとされるはずの容姿》なのに。
「ははは…僕のドコに惹かれるって言うんですか」
「まずは容姿だろ」
「良いところなんてありませんよ」
「…零汰の家に、鏡…あるか?」
「手鏡なら。でもあまり使いません……おいしいですね、コレ」
「………………」
(こんなに自覚が無いヤツがこの世にいるのか…)
優貴が初めて、食堂で呆気にとられた出来事だった。
「ところで優貴くん…明日の放課後、訊きたいことがあるんです」
――予定はありますか?――
零汰の言葉に、優貴は首を振った。
――特に…――
▽
――午後三時半までに、ホームルームに来てください――
六校時、優貴と零汰はそれぞれ違う科目を取っていた。
授業がある教室も優貴が一階の隅、零汰は二階にある職員室の隣だった
(授業延び過ぎだろ…!)
眉間に皺を寄せながら、優貴はホームルームに走った。