豹変時計









「優貴くんは、勘が鋭いんですね…」

(…と言うより観察、分析力が卓越してる…探偵顔負けだな…)


先程も、零汰がある女子生徒に声を掛けられることを《予言》していた。



「並だよ」


優貴は今買ったアンパンを囓った。


零汰はテーブルに置いてある割り箸立てを、興味津々に眺める。



「優貴くんは、モテるんでしょうね…」


「…………並だよ」
アンパンを飲み込んで、優貴は繰り返す。



「…零汰こそ、あっちでは女の子にモテただろ?」


(ロシアはユーラシア大陸だよな……)


優貴は零汰が当然肯定するだろうと、思っていた。



「全然、です」

「…嘘だ。」


優貴は、ビニール袋からピザパンを取り出す零汰をまじまじと見た。



一本一本が細い髪も、寒さに順応して高くなった鼻も、凛とした瞳も、


《ほぼ総ての国、共通で美しいとされるはずの容姿》なのに。




「ははは…僕のドコに惹かれるって言うんですか」

「まずは容姿だろ」

「良いところなんてありませんよ」

「…零汰の家に、鏡…あるか?」

「手鏡なら。でもあまり使いません……おいしいですね、コレ」



「………………」

(こんなに自覚が無いヤツがこの世にいるのか…)

優貴が初めて、食堂で呆気にとられた出来事だった。

「ところで優貴くん…明日の放課後、訊きたいことがあるんです」


――予定はありますか?――

零汰の言葉に、優貴は首を振った。

――特に…――







――午後三時半までに、ホームルームに来てください――


六校時、優貴と零汰はそれぞれ違う科目を取っていた。
授業がある教室も優貴が一階の隅、零汰は二階にある職員室の隣だった



(授業延び過ぎだろ…!)

眉間に皺を寄せながら、優貴はホームルームに走った。


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