Loss of memory ーアルコバレーノの奇跡ー
出来たコーヒーをお盆に乗せて書斎まで戻る。
どうぞ、とキルト様、フラウ様の順にコーヒーを渡す。
一口口にすると美味しいと言ってもらえた。
「アナディア」
キルト様に手でこっちに来いと催促され、小走りでキルト様の前に行くと頭を撫でられた。
「私、子どもじゃないです」
子ども扱いされた気がして少し拗ねる。
「わかっているさ。
コーヒー、ありがとう。怪我の具合はどうだ?」
少し跡が残ってしまった傷跡をなぞる。
私は痛みを感じることはなく、順調だと伝えた。
キルト様は少し嬉しそうに、そうか、とつぶやくとまた書類に視線を戻した。
やることがなくなってしまった。
「そういえば、キルト様、フラウ様?」
話さなくては、と思っていたことを口にしようとする。
けど、よく考えれば今は仕事中だ。
今話すのは邪魔になるかもしれない。
「いえ、やっぱり後でいいです。
お仕事が終わったら少し、お話を聞いていただけますか?」
「わかった。」
「もちろんです。後ほど、お伺いしますね。」
あとはいるだけ邪魔だと思い、その場を離れた。
そのあとは部屋でおとなしくしていた。