Loss of memory ーアルコバレーノの奇跡ー
邪魔になるかも、と思いつつも私の脚はキルト様の書斎へと向かっていた。
コンコン、と軽く叩くと扉の向こうから美しい低音ボイスが聴こえる。
「アナディアか。入っていいぞ。」
何も言ってないのに私だとわかるようで、そっと重い扉を開くとそこには大量の書類と向き合うキルト様と、その横で何やらパソコンでカチカチと何かをしているフラウ様がいた。
「アナディア様?どうかなさいましたか?」
首を傾げたフラウ様。
歯切れの悪い声で、何か手伝いたいと伝える。
「じゃ、邪魔はしませんっ。
でも、何かしてないと落ち着かなくて........」
フラウ様とキルト様は顔を見合わせて小さく笑っていた。
私、変なこと言った?
私が不安そうにしているのがわかったのか、フラウ様は違いますよ、と微笑む。
「では、眠気覚ましに温かいコーヒーを淹れていただけますか?」
フラウ様が私にはじめてくれた仕事。
大きな声ではいっっ!!!と返事をすると、私は隣にあるコーヒーを入れるためだけの部屋でコポコポとコーヒーを作る。
とびきり美味しくなーれ、そんな小さなおまじないをかけながら。