喫茶冬景色
「雅美。俺にとってはさ。今日はその6日目なんだ。」
 
「・・・?」
 
うん。そんな顔する理由はよくわかる。
 
何せ、10年前の話だからね。
 
「明日にでも、彼女が戻ってきそうな気がするんだ。」
 
女々しい。
 
諦めきれないってのとはちょっと違うんだ。
 
「なんて言うのかな。男のプライドみたいなものかな。」
 
彼女を笑顔にしたいって約束してたから。
 
うん。俺自身への約束事さ。
 
「どういうこと?」
 
「誓いみたいなものなんだよ。男をたてるときの。」
 
「誓い…?」
 
「そう。誓い。」
 
「…愛してたのね?」
 
愛とはちょっと違うかもしれない。
 
好きとか、嫌いとか
 
結局彼女には伝えたことはなかった。
 
「ううん。ただ、大切にしたいって思ってただけだよ。」
 
「そう言うのを愛って言うんじゃないの?」
 
分からないよ。
 
「雅美。お前に抱いてる感情とは違うからね。」
 
「…そう。」
 
――カラーンカラン―――
 
高音のベルが鳴ると同時に渋い声が店内に響く。
 
「いや~寒いね。」
 
喫茶店のマスターが店の中に入って来た。
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