喫茶冬景色
6章マスター

父として

「はいっ。お待ちの新作だよ。」
 
マスター。また、俺で実験ですか。
 
そう思いつつも俺はカップに口をつけた。

「えぇ。おいしいですよ。少し苦みが足りないかな?」
 
「やっぱりかい?いやぁ~。自信があったんだけどね。」
 
ホントこの人は。
 
すると急にマスターが言いだした。
 
「明弘君がここに来て何年になる?」
 
「えっと、大学を卒業してここに帰ってきてからですから5年、・・・いや6年くらいですかね。」
 
昔この場所にはつぶれそうだと有名な食道があった。
 
前はビデオ屋さん。
その前はコンビニ。
その前は・・・お好み焼屋だった気がする。
 
どれも、これも一年を待たずして。
 
店には不向きないわく付きの土地なんだろう。
 
ここが喫茶店になっていた時、俺は興味半分で店内に入った。
 
「よく、持ちましたよね。」
 
「ひどいな。すぐにでもつぶれると思ってたのかい?」
 
「まぁ。」
 
「たしかに客足は伸びないけどね。でも、いい店だろ?」
 
「えぇ。たしか、ほとんどが倉庫として使っているんでしたよね。」
 
大通り沿いにあって街の様子を見渡せるのに店内にはだれもいない隠れ家。
 
「俺、この店気にいってますよ。」
 
「ははは。ありがとう。」
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