喫茶冬景色
「さっきの彼女?」
 
マスターが、自分用のコーヒーを入れながらつぶやいた。
 
「え?」
 
「ほら。泣いて出てった人。」
 
少し沈黙の後、俺は答えた。
 
「別れ話してたんだすけどね。逃げられちゃいました。」
 
俺は笑った。
 
マスターはそうとだけつぶやき。席に座った。
 
「マスター?マスターは、忘れられない女性っていますか?」
 
「忘れられない女性かい?」
 
「えぇ。愛しているとか好きとか言うわけでもなくただ単純に大切な人。」
 
「そうだね。僕の場合は娘かな。」
 
マスターは6年前に再婚し今小学生になると言う娘さんがいる。
 
「6歳、でしたっけ?かわいい盛りですね。」
 
「うん。彼女もそうだけど、前の奥さんとの娘もね・・・。」
 
「その子、いくつなんですか?」
 
マスターは鼻をすすり遠くを見ながらつぶやいた。
 
「明弘君。君と同じ年さ。」
 
「え?そんなに?マスターって見た目よりもずいぶん年なんですね。」
 
「はは。年とはひどいな。こう見えてもわきつもりなんだけどね?」
 
そう言ってマスターは笑っていた。
 
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