喫茶冬景色
「明弘君、永遠の恋がどこにあるか知っているかい?」
 
「永遠に続く恋ですか?」
 
「そう、永遠に続く恋だよ。」
 
「付き合っている彼女にあるんですかね?」
 
マスターが何を言いたいのかわからなかった。
 
「付き合って来た彼女全てに永遠の恋があるわけじゃないだろ?」
 
「はぁ。」
 
「この人だ。って思える人。」
 
「つまり運命ってやつですか?」
 
マスターは首を振った。
 
「きっとね、それは誰もが持っているものなんだよ。」
 
誰もが持っている永遠の恋。
 
それは?
 
「女性はね、男よりも気持ちをくみ取るのがうまいだろ?」
 
そうなのかな?雅美もたしかに、別れ話しようとしてた時わかってたみたいだけど。
 
「彼女たちの永遠の恋はね、最終地点にまで気持ちを運ぶことなんだよ。」
 
「気持ち。ですか。」
 
「そう。『好き』って気持ちさ。その気持ちが熟すまでに何人通過するかは知らないけどね。最終地点に待つその人へつなげる気持ち。永遠だろ?」
 
それは。つまり。
 
「より深く、より濃厚に人を愛せるように。」
 
「…。」
 
通過駅は通過駅でしかない。
 
「納得できないかい?」
 
「まぁ。」
 
マスターは続ける。
 
「でも男はね、一度愛した女を一生忘れない。そういう生き物さ。」
 
「ほら、よくいるだろ?『俺、お前のこと忘れられねえぇんだよ!』って熱くなるやつ。あれさ。」
 
「そして、何人付き合ったとしてもその人達を覚えているんだよ。たとえ別れた後でもずっと、ずっと。本気で愛した人ならね。愛し続けているんだ。同じ人を。」
 
そう言うと、マスターはどこか寂しげに外の雪景色を眺めた。
 
男たちは同じ人に永遠を預けてゆく。
 
「それが、永遠の恋ですか?」
 
「そう。女たちには秘密の永遠の恋。彼女たちには言ったらだめな秘密さ。叱られたり、女々しいって嫌われるからね。明弘君。」
 
「女には理解できない永遠の恋ですか。」
 
「そうだね。女には理解できない男の永遠の恋さ。」
< 67 / 78 >

この作品をシェア

pagetop