赤い狼 参
そうやって愛しそうに私を見つめる隼人の気持ちを。
だけど、気付いてないフリ。
だって、私にはもう結婚する相手がいるし。
決まってるから。
それを今更、変えようなんて馬鹿な事、思わない。
どうせ利用される運命なら、とことん利用されてやる。
でも、隼人が私に想いを告げてきた時は…私は、ぃぃ返事をあげられそうに無いから。
だから、気付かないフリ。気付いてないフリ。
それが私にとって一番、楽。
だからお願い。
その低い声で"好きだ"なんて言わないでね。
困るから。
そしたら私はもう此所に来られなくなるから。
私は結局、誰とも深く関わろうとしていない。
家族とも、《SINE》の皆とも、実や香とも、《VENUS》の皆とも…―――
「稚春。」
その低い声が私の耳をくすぐる。
何?と問い掛ければ、何故か隼人は機嫌が悪くて。
「今、何考えてる?」
今日、二度目の質問をしてきた。
「え?《SINE》の皆な事だよ。」
そう言って首を傾げると
ふーん?
と隼人は私の顔を疑うようにマジマジと見つめてきた。