赤い狼 参
すると
「…稚春、誰に電話しようとしてんだ?」
「え?棗だけど。」
「…貸せ。」
「へ?」
「ぃぃから。貸せ。」
「うん?」
何故か眉間に皺を寄せて手を差し出してくる連に首を傾げながらも携帯を差し出す。
そう、さっきから私にスリスリとすり寄ってきている男は他でもない連の事。
そして、連は目を細めながら携帯の画面を見つめると。
「え、何処行くの?」
いきなり立ち上がった。
私のその質問に答える事なく連はこの部屋の隅に置いてある小物入れらしき引き出しを開ける。
そして
「え。」
その引き出しの中から出してきた油性ペンで携帯の画面を真っ黒に染めた。
一瞬、思考回路が停止する。
…え。
「…連、それ私の携帯…。」
唖然としながらも連に話し掛けると
「知ってる。」
平然と答えてその辺の棚に携帯を置いた。
「それ、龍に買ってもらったんだけど…。」
未だ放心状態の私は小さな声でこっちに近付いてくる連に呟く。
「知ってる。」
その呟きにも連は何も無かったように答え、私の目の前に座る。