赤い狼 参





「思い出した?」



意味が分からない私は、男の人の顔を覗き込む。




「あぁ。ずいぶん昔の事だけどね…。」




男の人は穏やかな表情をしながら"昔の事"を話してくれた。







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「そんな事があったんですか…。」





男の人が話してくれたのは昔、愛していた麻美さんとの事。



幸せだった、と目を細める男の人が私の心を切なくさせた。




過去形なのは今は、麻美さんが男の人の側に居ないから。



麻美さんは男の人ではなく、他の男の人の所に行ってしまったらしい。



…私だったら、こんなに一途な人を離しはしないだろうに。



その麻美さんは何が欲しかったのだろうか。



今、目の前に居る男の人に愛されて。



守るべき愛しき子供が出来て。



何を、求めていたんだろうか。




それは、私には分からない。


でも、出ていくなんて酷すぎる。




そう思いながら俯いていると



「まぁ、俺は麻美が元気にやってればそれで、ぃぃんだ。」



男の人は少し重くなった空気を無くそうと元気そうに笑う。





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