赤い狼 参
「あのね…、私の勘違いなのかもしれないんだけど…」
そう言いながら瞼を伏せる稚春の横顔は、酷く綺麗だ。
潤っている稚春の瞳を見つめる。
悲しそうな顔をしている筈なのに綺麗だと思うなんて、おかしい。
でも、本当に綺麗に見える。
何故だろう。
前にも、そう思った事がある。
この子、心の底から笑ってないな。と思った事が。
その時も、寂しそうな、悲しそうな顔をしていた。
なのに俺は綺麗だ、なんて思ったんだ。
あの時も、伏せ目がちな稚春の横顔を見て。
儚げに散っていきそうな姿を。
そう思っている間にも、稚春はさっき泣いた原因をポツポツと話す。
その言葉は、俺にしっかりと向けられていて。
稚春はこうやって心の内を打ち明ける事が出来る人を今まで、持っていたのだろうか…――
そんな考えがふと、頭を過る。
ただ、本当にふと、浮かんだ。
稚春の、ぎこちない喋り方。
何から話してぃぃのか時々悩んで頭を捻る、その仕草。
全てが俺の何かに引っ掛かって。
多分、こういう事をする機会がなかったんだな。と勝手ながらそう思った。