赤い狼 参
「祐…お兄ちゃ…ん」
とても小さく、掠れた声で呟いた稚春。
でも、何故かその言葉はしっかりと聞こえてきた。
その声には驚きや、喜びが含まれている気がした。
……お兄ちゃん?
こいつに兄貴なんて居たのか?
不思議に思って棗に視線を向ける。
でも、棗は目をこれでもかってぐらい開いていた。
…棗も知らねぇって訳か。
そうだよな。全部調べさせたもんな。
でも、最低限の情報しか出てこなかったけど。
稚春を見て固まっている祐という奴に視線を向ける。
こっちも固まってるな。
じゃぁ、コイツも知らなかったって事か。
「祐…、祐っ!!」
稚春がさっきとは違って、はっきりと聞こえる声で叫んだ。
まるで、何かを訴え掛けてるように。
気付いてほしいとでもいうように。
「稚春!?」
要が叫んだと同時に、祐から稚春に視線を向ける。