赤い狼 参
:何だったんだ
「おい。」
「はい。すいませんでした。」
低い声を出して私を見下ろす目の前の男。
その顔には、とても見覚えがある。
「約束したよな?」
確かめるように私に問い掛けるその声は、とてもわざとらしい。
「はい、しましたね…。」
「じゃぁ何で俺は最近、稚春の姿をずっと見てねぇのかな。」
そう言って首を傾げる悪魔とも思える目の前の男は…
「すいませんでした。拓磨様。」
他でもない、《VENUS》の中で一番優しかった筈の、拓磨だ。
そんなに怒らなくても…と肩を竦める私に、拓磨は冷たい視線を向ける。
「ピランルト・タウンに行ったよなぁ?」
お、おぉ、怖い怖い。
殺されそう。
そんな事を思って体を縮めた私に容赦なく冷たい視線を向ける悪魔拓磨。
そんな私を見てさすがに可哀想と思ったのか、隣で一部始終を見ていた優悪が止めに入る。
「おいおい、稚春が怖がってるって。反省してるっぽいし、もう許してやれよ。」
か、神だ。
神がここに居る。
私は後光を浴びている優悪をすがるように見つめる。