赤い狼 参






…――稚春はそのまま俺の横を通り過ぎて、祐って奴に飛び付いた。





「逢いたかったっ…。」





その声は甘みを含めていて。





いつも凛としている稚春が、親に甘える子供の様に見えた。





祐を見ると、何処か悲しそうな顔をして稚春を見つめていた。


その手は、稚春に触れる事は無く、そのまま無気力に垂れ下がったまま。




一瞬でピンときた。




この兄弟にはきっと、何かあるんだろう。






「えっと…稚春、取り敢えず離そうか。」



「ヤダッ!」




祐が稚春の背中に少し触れて優しく言うが、稚春は首を振って離れようとしない。




…コイツ、こんなキャラだったか?




目を丸くしながら稚春達を見る。




すると、祐って奴は俺等の視線に気付いて



「少しコイツ借りてきます。


…稚春、行くよ。」



部屋を出ていった。




優しいまなざしを稚春に向けて。







< 5 / 410 >

この作品をシェア

pagetop