赤い狼 参
…――稚春はそのまま俺の横を通り過ぎて、祐って奴に飛び付いた。
「逢いたかったっ…。」
その声は甘みを含めていて。
いつも凛としている稚春が、親に甘える子供の様に見えた。
祐を見ると、何処か悲しそうな顔をして稚春を見つめていた。
その手は、稚春に触れる事は無く、そのまま無気力に垂れ下がったまま。
一瞬でピンときた。
この兄弟にはきっと、何かあるんだろう。
「えっと…稚春、取り敢えず離そうか。」
「ヤダッ!」
祐が稚春の背中に少し触れて優しく言うが、稚春は首を振って離れようとしない。
…コイツ、こんなキャラだったか?
目を丸くしながら稚春達を見る。
すると、祐って奴は俺等の視線に気付いて
「少しコイツ借りてきます。
…稚春、行くよ。」
部屋を出ていった。
優しいまなざしを稚春に向けて。