天使のキス。
夏が過ぎて秋になっても悠とは会えず、悠のケータイ電話に電話をかけても


『おかけになった電話は…』


ケータイの向こうで知らないお姉さんが繰り返すばかりで、悠の声が聞けることは一度もなかった。


それでもあたしは、毎日桜川公園に行ってみた。


クローバーの丘で待っていたら、悠が来てくれるような、悠に会えるような。


――そんな気がして、毎日通った。


それなのに、悠に会えないまま短い秋も終わり、冬がきた。


どんよりとした雲が広がった空から、東京では珍しい雪がちらついた日。


「愛里」


あたしの名前を呼んだのは、待ち焦がれた悠ではなく、沙耶につきそっていった病院以来、ずっと口をきいていない健ちゃんだった。
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