嘘婚―ウソコン―
黒いTシャツとブラックジーンズと言うラフな服装に、黒のニット帽に黒のサングラスである。

右耳につけているダイヤのピアスが太陽に反射されて輝いていた。

片方の肩に背負っているのは黒のリュックである。

一見すれば、ここにいる若者たちと変わらない格好だ。

そんな彼の本当の正体は、財閥の御曹司である。

父親は日本の経済界を代表する『周財閥』の社長だ。

こんな人通りの多いところを財閥の御曹司が歩いていると言うシチュエーションは、誰も考えもしなければ思いもしないことだろう。

…なんて、今はそんなことを言っている場合じゃない。

今は待ちあわせ場所に向かうのが先だ。

この日の陽平は父親との食事のため、待ちあわせ場所である父親の会社に向かっていた。

(…あの話だな)

6月の終わりの夕方の太陽を肌で感じながら、陽平は待ちあわせ場所に向かった。
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