嘘婚―ウソコン―
『鉄板ディナー・綾部』

昨日オープンしたばかりのその店は、飛騨牛を格安の値段で出すホテルの中にある飲食店だ。

店長兼料理人の大前曰く、名物料理は飛騨牛のステーキである。

オレンジ色の照明がキレイなおしゃれな店内は、家族や友達、カップルが気軽に来店できる店と言うよりも、会社の接待などで使われる店と言った方が正解だ。

料理は単品ではなく、コース料理で出される。

ワインやシャンパン、カクテルを始めとするいろいろなお酒が置いてあるのも魅力的だ。

まだ開店前のその店のドアを、千広は恐る恐ると言うように手をかけた。

オープン前から何回もきているはずなのに、まだ緊張する。

(お化け屋敷に行く訳じゃないんだから…)

自分にツッコミを入れながら、千広は中に足を踏み入れた。

「おはようございます」
と、千広に声をかけたのは先にきていたバイト仲間だった。

いきなり声をかけられた千広は戸惑いながら、
「…おはようございます」
と、呟くように言った。
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