嘘婚―ウソコン―
語り始めた陽平の話に千広は耳を傾けた。

「薄っぺらい紙の関係でも、俺たちは夫婦なんだ。

紙だからうっかり飛ばされそうかも知んないけど、繋がりは重くて深い。

例えるとするなら…そうだな、岩みたいな?」

「い、岩…」

千広は自分の頬が引きつるのを感じた。

その表現、何か変な気がする。

だけど、他には何も浮かばない。

引きつった顔をしている千広に、
「夫が妻を助けるなんて、なおさら当然だ。

夫婦としては間違ってないだろ?」

陽平が言った。

「うん…」

コクリと、千広は首を縦に振ってうなずいた。

「要は、夫婦としての掟に従ったまでだ」

陽平は言い過ぎたと言うように息を吐くと、空をあおいだ。

そんな彼の端正な顔を見ながら、千広は思った。
< 113 / 333 >

この作品をシェア

pagetop