嘘婚―ウソコン―
この間会って、あいさつまでした相手である。

こう言うシチュエーションに全くなれていない千広は、戸惑ってしまった。

ああ、頭が痛い…。

「ああ、おはよう」

後ろから声をかけられ、千広はビクッと肩を震わせた。

振り返って視線を向けると、
「おはようございます…」

テーブル席の調理担当の岸にあいさつした。

彼は店長の次にえらい副店長の人――と、千広が勝手に思っているだけで本当はわからない。

年齢は千広と7歳しか違わない。

岸は人当たりのいい笑顔を浮かべて、
「早く着替えておいで」

ドアの前でつっ立っている千広に声をかけた。

「は、はい」

岸に言われ、千広は逃げるように更衣室へと走って行った。
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