嘘婚―ウソコン―
「おはようございます」

すでに厨房にいた笹野に、千広は声をかけた。

「ああ、おはよう」

準備をしながら、笹野が答えた。

彼はもうおじいさんと言っても過言ではないくらいの年齢だ。

千広は壁にかかっているメニューの確認をした。

コース形式で前菜と温前菜が2つから選べると言うこの店は、出勤したらメニューの確認をするのが店の法則だ。

「前菜はAが鴨肉のローストのバルサミコソースで、Bが魚介類とアボカドのタルタル仕立て…」

ブツブツと呟きながらメニューを頭にたたき込んでいた時、
「おはよう」

「あ、おはようございます…」

声をかけたのは、店長の大前だった。
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