嘘婚―ウソコン―
麻里子はカバンを持つと、早足でその場を去った。

ベルが鳴り終わったことを確認すると、千広は陽平のそばに駆け寄った。

「――大丈夫ですか…?」

紅葉のように真っ赤に色づいた頬が痛々しかった。

問いにも答えず、陽平は黙っている。

「――どうして…どうして、あんなことを言ったんですか?」

千広は問いかけた。

2人の間に沈黙が流れた。

その沈黙は重く、長く感じられた。

それを破いたのは、
「――苦しめばいいと思ったんだよ」

陽平だった。

「――えっ…?」

千広は訳がわからなくて聞き返した。

(苦しめばいいって、どう言うことなの…?)

そう言った陽平に、千広は訳がわからなかった。
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