嘘婚―ウソコン―
言っている意味がよくわからない。

陽平は続けて、
「さっきの女、俺の見合い相手なんだ。

三橋麻里子、銀行の専務の娘なんだ。

会いたいって言うから仕方なく会った、そしてバラした」
と、言った。

今まで聞いたことがないくらいの低い声で話す陽平は、自分にも語りかけているようにも見えた。

「思ってた人に、実は自分以外の相手がいた。

ショックを受けて、苦しめばいいと思った。

ただ、そう思った」

陽平はズボンのポケットから財布を出すと、1万円札を千広に突き出した。

「つりはいらないから」

千広に1万円札を受け取らせると、陽平はすぐに背中を見せた。
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