嘘婚―ウソコン―
「役者はそろったな…」

陽平はそう呟いて、何かを企んでいると言うように口角をあげた。

彼が口角をあげた時、千広の心臓がドクリと鳴った。

確かにこの場には麻里子の家族も陽平の家族も、そして自分もいる。

一体、何を始めると言うのだろう。

そして、陽平は何を企んでいるのだろう。

千広は陽平を見つめた。

自分を見つめた千広の視線を無視すると、陽平は父親に視線を向けた。

「親父」

陽平が父親を呼んだ。

「どうした?」

いきなり名前を呼ばれた父親は首を傾げた。

陽平は自分の息子のはずだ。

だけど、彼の頭の中はさすがに父親もわからないらしい。

父親と陽平の2人を見て、千広は思った。

陽平は唇を動かすと、
「俺、彼女と結婚するのをやめるわ」
と、言った。
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