嘘婚―ウソコン―
そんな千広に気づいた陽平が振り向いた。

近づいてきた千広に、陽平は微笑んだ。

何故だか知らないが、今は彼女に笑いかけたくなった。

陽平が自分を見て微笑んだことに、千広は戸惑っていた。

成功して、婚約も破棄できたから満足と言うところなのだろう。

でも、戸惑った。

その微笑みは陽平個人ではなく、自分に向けられているような気がした。

「いつ終わる?」

陽平が聞いた。

「…まだ、わからないです」

首を横に振って、千広は答えた。

「じゃ、いつもの歩道橋で待ってるから」

それだけ言うと、陽平は手をあげて父親の後を追って去って行った。
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