嘘婚―ウソコン―
千広の顔を見ると、
「今思うと、一目ぼれだったのかも知れないな」

陽平が言った。

「えっ?」

千広は聞き返す。

「最初は見合い相手への当てつけ、彼女への復讐のつもりだった。

とりあえず、誰でもいいから妻になってくれる女を探してた。

別にヒロじゃなくても、小田切さんでも、ハートでも、もう少し言うなら1人暮らしのおばあさんでも構わなかった。

俺に既婚者って言う事実がついてりゃいい訳だから。

けど、俺はヒロを選んだ。

ヒロに妻を選んだ」

陽平は休むように呼吸した。

それから続けて、
「つまり、俺はヒロに恋をした。

出会って、名前を見た時からずっと。

復讐でも、婚約破棄でも、何でもなくて」
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