嘘婚―ウソコン―
視線がぶつかった彼女を陽平は観察した。

ツヤのいい黒髪は1つのお団子にしてシュシュで束ねている。

一重の眠たそうな目に、小柄な躰が特徴的だった。

彼女のその雰囲気は、小動物を連想させたのだった。

陽平はフッと口角をあげて笑みを浮かべると、形のいい唇を開いた。

「――緊張してる?」

その問いに、千広の心臓が跳ねた。

「えっ、あっ…」

いきなりそんなことを言われたものだから、どう返事をすればいいのかわからない。

この様子は、かなり緊張しているのだろう。

陽平は笑い出したい気持ちをこらえた。

ふと、何気に彼女の制服についている胸元の名札が視界に入った。
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