嘘婚―ウソコン―
“小堺千広”と、名札にはそう書いてあった。

(――ちょうどいいな)

陽平は心の中で呟いた。

とりあえず、女なら誰でもいい。

「君、大学生?」

そう聞いてきた彼に、
「大学2年、ですが…?」

千広は答えた。

大学2年…つまりは、20歳である。

年齢的にもなおさら都合がいい。

ニヤリと無意識にあがる口角を隠すように、
「とりあえずさ、あんまり緊張するな。

バイトだか何だか知んないけど、思いっきり顔に出てるぞ」
と、言葉を発した。

「――ッ…!?」

千広はハッと我に返ったような顔をすると、両手を頬に当てた。

陽平は笑い出したい気持ちを押さえると、父親の元へと向かって行った。
< 23 / 333 >

この作品をシェア

pagetop