嘘婚―ウソコン―
千広は、自分が今耳で聞いた言葉が信じられなかった。

(ち、チチオヤって…あの、“父親”だよね?)

それ以外の単語で浮かんでくるものはない。

自分が今耳にした言葉は、間違いなく“父親”だ。

千広は思わずキョロキョロと首を動かして、辺りを見回した。

自分の周りには、誰もいない。

当然、今の話は自分以外誰も聞いていないと言う訳だ。

よかったと胸をなで下ろしたいところだが、今はそんなことをしている場合ではない。

“父親”と言う単語が出てきたことは、当然子供がいる。

その子供と言うのが、“公平”と言う今出てきた名前だろう。

「さっきからそう言ってるけどさ、俺とその公平くんに血の繋がりがあるって言う訳?

俺が公平くんの父親で、公平くんが俺の息子だって言うDNAはどこにある訳?

証拠がなきゃ意味がないんだけど」

陽平が話を続ける。
< 244 / 333 >

この作品をシェア

pagetop